質的研究の分析方法とは?手順・具体例・活用分野まで体系的に解説
- 2026/01/08
- 2026/01/08
質的研究の分析方法は、「集めた語りや記録をどう意味づけるか」で研究の質が決まります。インタビューや観察データを前に手が止まってしまう人は少なくありませんが、基本的な手順と考え方を押さえれば、質的研究は再現性のある分析に落とし込めます。本記事では、質的研究の分析方法を基礎から実務視点で整理します。
質的データ・質的研究とは
なぜ「分析方法」が質的研究の成否を分けるのか
質的研究とは、人の行為や語り、経験に含まれる「意味」を明らかにすることを目的とした研究アプローチです。数値として測定できるデータを扱う量的研究に対し、質的研究が扱うのは、言葉・文章・行動・文脈といった非数値データになります。これらは一般に「質的データ」と呼ばれます。
質的データの代表例としては、インタビューの逐語録、自由記述アンケートの回答、観察記録、日記や記録文書、会話ログなどが挙げられます。いずれも、そのままでは統計処理にかけられず、「どのような意味を持つのか」「なぜそのように語られたのか」を読み解く必要があります。
このとき重要なのは、質的研究が単なる感想の集積ではないという点です。個々の語りや行動を、社会的・文化的・時間的な文脈の中で捉え直し、共通するパターンや構造を見出すことで、現象の理解や新たな理論構築につなげていきます。
つまり質的研究とは、「データを集める研究」ではなく、「意味を構造化する研究」だと捉えると理解しやすくなります。
その中心に位置するのが、分析方法という工程です。
質的研究における「分析」と「解釈」の違い
質的研究で混同されやすいのが、「分析」と「解釈」の違いです。この二つを曖昧にしたまま進めると、研究全体の論理が崩れやすくなります。
分析とは、質的データを一定のルールや視点に基づいて分解・整理し、パターンや構造を抽出する工程を指します。具体的には、逐語録を読み込み、意味のまとまりごとにコードを付与し、それらを統合してカテゴリーやテーマを形成していく作業が該当します。ここでは、恣意性を抑え、誰が見ても納得できる整理が求められます。
一方、解釈とは、分析によって得られた構造やテーマに対して、「それは何を意味しているのか」「なぜそのような構造が生まれているのか」を理論や先行研究、文脈と照らし合わせながら説明する工程です。分析が事実の整理だとすれば、解釈は意味づけのフェーズと言えます。
重要なのは、解釈を先に行わないことです。結論ありきでデータを読むと、分析は後付けの根拠集めになってしまいます。まずは分析によってデータの構造を明確にし、そのうえで解釈を行う。この順序を守ることが、質的研究の説得力を支えます。
この区別を意識することで、質的研究は「主観的な読み物」から「論理的に説明可能な研究」へと一段階引き上げられます。
次は、実際に分析を進める際の具体的な手法や手順について掘り下げていきます。
質的研究で扱われるデータの種類
質的研究の分析方法を理解するうえで、最初に押さえるべきなのは「どのようなデータを扱うのか」という前提です。質的研究では、数値に還元できない情報を対象とするため、データの性質によって分析の進め方や注意点が変わります。
ここでは、実務や研究で頻出する代表的な質的データを3つに分けて整理します。
インタビュー・語りデータ
インタビューや語りデータは、質的研究でもっとも一般的に用いられるデータです。半構造化面接や非構造化面接を通じて得られる逐語録は、当事者の経験、価値観、意思決定の背景を直接的に捉えることができます。
この種のデータの特徴は、「何が語られたか」だけでなく、「どのように語られたか」にも意味が含まれる点です。言い淀み、強調、繰り返し表現、感情のこもり方などは、単なる情報以上の示唆を持ちます。そのため、分析では発言内容を切り取るだけでなく、文脈や前後関係を意識したコード化が求められます。
一方で注意すべきなのは、インタビューが研究者と参加者の相互作用によって生成されるデータであるという点です。質問の仕方や場の雰囲気が語りに影響を与えるため、「事実の記録」ではなく「構築された語り」として扱う視点が不可欠になります。
この理解を持つことで、次に扱う観察データとの違いが明確になります。
観察記録・フィールドノート
観察記録やフィールドノートは、人々の行動や相互作用を「実際の場面」で捉える質的データです。参与観察や非参与観察を通じて、会話だけでは捉えきれない振る舞いや空気感、場の構造を記録します。
このデータの強みは、本人が意識的に語らない行動や、言語化されない規範やルールを捉えられる点にあります。たとえば、会議で誰が発言権を持っているか、どのタイミングで沈黙が生じるかといった要素は、インタビューだけでは把握できません。
一方で、観察記録は研究者の視点が強く反映されやすいデータでもあります。何を「重要」と判断して記録するかは研究者次第であり、その恣意性を自覚しないまま分析に進むと、解釈の飛躍が生じやすくなります。そのため、フィールドノートでは事実記述と考察メモを意識的に分けて残すことが推奨されています。
このようなデータは、文書データと組み合わせることで、分析の妥当性をさらに高められます。
文書・テキストデータ
文書・テキストデータには、日記、手紙、業務記録、公式文書、Web記事、SNS投稿、自由記述アンケートなどが含まれます。これらは既に存在するデータを対象とするため、研究者の介入が比較的少ない点が特徴です。
この種のデータは、特定の個人や組織がどのような言葉を選び、どの価値観や前提のもとで記述しているかを読み解くのに適しています。内容分析やテキスト分析を通じて、繰り返し使われる表現や語彙の偏り、語られていない前提を浮かび上がらせることが可能です。
ただし、文書データは作成された目的や背景を無視すると誤読につながります。誰に向けて、どのような意図で書かれた文書なのかを踏まえずに分析すると、表層的な解釈に留まってしまいます。
こうした制約を理解したうえで、インタビューや観察データと組み合わせることで、質的研究全体の分析精度が高まります。
次のセクションでは、これら多様な質的データをどのように整理し、意味のある構造へと変換していくのか、具体的な分析方法に踏み込んでいきます。
質的研究の分析のやり方【手順を6ステップで解説】
質的研究の分析は、センスや経験だけで進めるものではありません。一定の手順を踏むことで、恣意性を抑えながら、再現性と説得力のある結論に近づけます。ここでは、初学者から実務利用まで共通して使える基本的な分析プロセスを6ステップで整理します。
ステップ1:データを整理し、分析対象を確定する
最初に行うべきは、集めた質的データを分析可能な状態に整えることです。インタビューであれば逐語録を作成し、観察であればフィールドノートを時系列やテーマごとに整理します。
この段階で重要なのは、すべてを分析対象にしようとしないことです。研究目的やリサーチクエスチョンに照らし、どのデータを中心に扱うのかを明確にします。ここが曖昧だと、以降の分析が発散しやすくなります。
整理が終わることで、ようやく「読むべきデータ」が定まります。
ステップ2:通読し、全体像を把握する
次に、整理したデータを最初から最後まで通して読みます。この段階では、無理にコードを付けたり、結論を出そうとしたりする必要はありません。
目的は、データ全体のトーンや頻出する話題、違和感のある表現を把握することです。研究者自身がどのような印象を持ったかをメモしておくと、後の分析で視点のズレに気づきやすくなります。
全体像をつかむことで、細部に入り込む準備が整います。
ステップ3:初期コードを設定する
通読が終わったら、意味のまとまりごとにラベルを付けていきます。これがコード化です。
ここでのコードは、必ずしも洗練された言葉である必要はありません。参加者の言葉をそのまま使ったり、行動を端的に表したりするレベルで問題ありません。重要なのは、データに忠実であることです。
初期コードは後から修正される前提で付けるため、この段階では量を恐れず、広く拾う姿勢が求められます。こうして、データが分解されていきます。
ステップ4:コードを統合し、カテゴリー化する
次に、似た意味を持つコード同士をまとめ、より抽象度の高いカテゴリーへと統合します。
この工程では、「なぜこれらのコードは同じグループに入るのか」を言語化できるかが重要です。単なる分類ではなく、概念としてまとまっているかを常に確認します。
カテゴリー化が進むことで、個別の語りが構造として見え始め、分析が一段深まります。
ステップ5:テーマや構造を抽出する
カテゴリー同士の関係性を検討し、研究全体を貫くテーマやプロセスを明らかにします。
たとえば、「どのような条件で」「どのような行動が生じ」「どんな結果につながっているのか」といった因果や流れを整理します。この段階で、図式化やモデル化を行うと、論理の抜け漏れに気づきやすくなります。
ここまで来て初めて、研究として主張できる骨格が整います。
ステップ6:解釈し、研究の示唆に落とし込む
最後に、抽出したテーマや構造を、先行研究や理論、研究文脈と照らし合わせて解釈します。
このとき重要なのは、分析結果を過剰に一般化しないことです。どこまでがデータから言えることで、どこからが解釈なのかを明確に区別します。そのうえで、実務や理論にどのような示唆を与えるのかを整理します。
このプロセスを経ることで、質的研究の分析は単なる整理作業ではなく、意思決定に耐える知見へと昇華します。
次のセクションでは、これらの手順の中核となる「コード化」と「カテゴリー化」を、より具体的な視点から掘り下げていきます。
質的研究が用いられる代表的な分野
質的研究は、数値化しにくい経験や意味、関係性を扱う領域で特に有効です。ここでは、質的研究が中核的に活用されてきた代表的な分野を取り上げ、どのような問いに対して、どのような価値を提供しているのかを整理します。
臨床心理学で活用されるケース
臨床心理学における質的研究は、個人の主観的体験や語りを深く理解するために用いられます。心理療法のプロセス、症状の意味づけ、回復体験の捉え方などは、尺度や得点だけでは把握できません。
たとえば、うつや不安を抱えるクライエントが「どのような出来事をどう解釈し、どの段階で変化を感じたのか」を明らかにする際、半構造化インタビューや事例研究が有効です。個別事例を丁寧に分析することで、症状の背後にある認知や対人関係のパターンが浮かび上がります。
実務的な示唆として重要なのは、質的分析が治療技法の改善や支援方針の検討に直結する点です。量的指標では見逃されがちな「治療が効いたと本人が感じる瞬間」や「悪化の兆しとなる語り」を捉えられるため、臨床現場の意思決定を支える補完的なエビデンスとして機能します。
このように、臨床心理学では少数事例からでも深い理解を得るために質的研究が不可欠となっています。
看護研究で活用されるケース
看護研究では、患者や家族の体験、看護実践のプロセスを理解するために質的研究が広く用いられています。看護は「標準化された処置」だけで完結せず、個々の患者の状況や価値観に応じた判断が求められるからです。
具体的には、入院生活における不安の感じ方、慢性疾患と向き合う過程、終末期医療での意思決定などが代表的なテーマです。インタビューや観察記録を分析することで、患者が何に安心し、どこでつまずくのかが明確になります。
看護研究で質的分析が重視される理由の一つは、実践知を言語化できる点にあります。経験豊富な看護師が暗黙的に行っている判断や配慮を、コード化・カテゴリー化することで共有可能な知見に変換できます。
その結果、教育や研修、看護計画の改善に活かせる実務的示唆が得られます。質的研究は、看護の質を底上げするための重要な基盤となっています。
社会学・教育研究で活用されるケース
社会学や教育研究では、集団や制度、文化の中で人々がどのように行動し、意味づけを行っているかを明らかにするために質的研究が用いられます。統計データでは把握できない権力関係や規範、暗黙のルールを捉える点が特徴です。
社会学では、フィールドワークやナラティブ・インタビューを通じて、ジェンダー、労働、家族、マイノリティの経験などを分析します。数としては少数であっても、当事者の語りを丁寧に分析することで、社会構造の歪みや変化の兆しを読み取ることができます。
教育研究においては、学校現場での観察や教師・生徒へのインタビューを通じて、学習環境や人間関係の実態を明らかにします。たとえば、なぜ特定の指導が機能しないのか、どのような場面で学習意欲が高まるのかといった問いは、質的分析によって具体的なプロセスとして説明可能になります。
これらの分野では、質的研究が政策提言や制度改善の根拠として用いられることも多く、単なる記述にとどまらず、社会的意思決定を支える役割を果たしています。
次のセクションでは、こうした分野横断的な活用を支える、質的研究の具体的な分析手法についてさらに掘り下げていきます。
まとめ
質的研究の分析方法は、集めた語りや記録を「意味のある構造」に変換するための中核プロセスです。インタビューや観察、文書といった質的データは、そのままでは断片情報に過ぎず、分析を通じて初めて研究として成立します。
重要なのは、分析と解釈を混同しないこと、そして研究の問いから逆算して分析手順を設計することです。コード化やカテゴリー化といった基本的な工程を踏むことで、少数のデータからでも説得力のある示唆を導くことが可能になります。
質的研究は主観的な作業ではなく、プロセスを明示することで再現性と納得性を担保できます。分析方法を理解することは、研究の質を高めるだけでなく、実務や意思決定に活かせる知見を生み出すための土台となります。
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